研究紹介

世界には、人口が農村から急速に流入し郊外に膨張していく途上国巨大都市がある一方で、人口増加や経済成長が止まり高齢化し中心市街地が衰退する 先進国都市が存在する。林は、このような都市の交通の土地利用・環境変化への影響を、経済発展と都市化・モータリゼーション進展の段階に基づいて 一般化して捉える理論を世界に先駆けて開発し、ロンドン、東京、名古屋、バンコクなどのメガシティの分析を通じて実証し、イスタンブール、上海、 大連、バンガロールなどの分析に利用してきた。また、交通網整備と土地利用政策の実施効果を、それらの相互連関を考慮して推計評価できる土地利用 交通モデルの開発に取り組み、1970年代後半に世界の代表的なモデルであるCALUTAS(Computer Aided Land Use Transport Analysis System)を開発し て、東京、名古屋、イスタンブールに適用してきた。この実績により、世界交通学会では、1989年より「交通土地利用分科会」会長を務めてきた。この 分科会では、カリフォルニア大バークレー校・デイビス校、ドルトムント大、リーズ大、ロンドン大、ケンブリッジ大、チリ大、アムステルダム大など のトップ研究者が、メンバーとして活動している。
一方、人口減少・少子高齢化時代における財政的・環境的に持続可能で巨大災害にも強い都市・集落を築き上げるために、100年後に人口が半分になる なら市街地も半分になるよう、災害に対して脆弱で維持コストも高い郊外スプロール地域からの撤退、および既成市街地の街区単位の再ストック化を実 現する都市計画と土地税制のグリーン化を連携した方法論を研究し、日本の国土審議会・大都市圏制度改正調査専門委員会における制度再構築に応用し た。また、日本経済新聞の「経済教室」や日本学術会議の「学術の動向」誌上に記事を書き、学会のみならず、広くその考え方の重要性を訴えてきた。 「交通と環境」研究においては、1996年よりOECD持続的交通プロジェクトに日本代表委員として参画し、EST(Environmentally Sustainable Transport) の概念を日本に導入した。2001年には世界交通学会に「交通と環境」分科会を結成して初代の分科会長に就任、当時WCTRS会長のRothengatter教授ら世 界の代表的研究者を集めたCUTE(International Comparative Study on Urban Transport and the Environment)プロジェクトを委員長として推進し、 Elsevierより「都市交通と環境」に関する世界初の共同研究書を出版した。
両分野の成果を総合して、アジアメガシティー研究グループを結成し、所得上昇に伴う自動車保有の進行、その波及効果としての郊外化、温室効果ガ ス・大気汚染の因果連鎖と、総合対策戦略・施策の比較研究を進行中である。ここでは、世界資源研究所(ワシントン)、Clean Air Initiative(マニ ラ)、同済大、清華大、フィリピン大、アジア工科大、インドネシア大、シンガポール国立大、イスタンブール工大、ソウル大、名古屋大、香川大、運 輸政策研究所、日本自動車研究所の研究者が林の呼びかけに集まった。
以上のように、現在会長を務める世界交通学会において長年つくり上げて得た国際的信頼を財産に、世界とアジアの交通・都市・環境政策の国際的リー ダー役となっている。